リレンザの全合成

2011年11月28日 21:16

石油から「リレンザ」合成…安価な大量生産に道(Yomiuri ONLINE)

実際石油由来といっても、中心となるのは特に沸点が低い(天然ガスやナフサ)部分でしょうかね。「石油から安価に生成できるニトロブテン」だからブタンだろうけど。ブタンガスのブタン。

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最近よく使われるインフルエンザウイルスの薬といえばタミフルやリレンザ、ラピアクタ、イナビルの四つでしょうか?僕はここ20年くらいインフルエンザ罹ってないし、タミフルが話題になるまでのインフルエンザウイルス対応の医薬品て知らなかっただけなのですが。

ラピアクタとイナビルの二つは僕は知りませんが、タミフルとリレンザは工業的に材料となるものが動植物由来のものです。(タミフルは色々な合成法の開発の話は聞きますが商業ベースでは今でもシキミ酸が原材料のままなんでしょうかね?;文末に関連記事へのリンクあり)

タミフルはシキミ酸と呼ばれるものが原料で、これは元々シキミと呼ばれる植物から単離精製されていたことでこの名が付いてます。
リレンザはシアル酸と呼ばれるものが原料で、これは動植物に元々含まれてるものです。母乳とか。工業的には海ツバメの巣からとか大腸菌の発酵とかで供給されてるようですね。ちなみにシアル酸という名前はある種のアミノ酸の総称です。(下の二番目の画像の左側の図で、左下のRの部分がいくらか種類があります)

特定生物由来の原料はコストが高止まりになりやすい傾向があるように思いますし、供給量に不安も少なくないと思います。ですから化学の力をもって安価かつ大量に作れるようにしようという研究がなされています。

で、今回は微生物化学研究所の柴崎正勝さんという方のグループが石油由来の成分からニトロブテンを合成し、これを原材料にリレンザ(成分名はザナミビル)をつくったよ、という話です。ちなみにこの様な単純な物質から複雑な物質(特に天然物)を作ることを全合成といって、一世を風靡した研究分野です。今も重要ですがw

ニトロブテン ニトロブテン

シアル酸とザナミビル 左:シアル酸 右:リレンザ(ザナミビル)

リレンザの材料たるシアル酸とリレンザの違いは主に右側の赤字で表記した部分ですが、たぶんこれ見た目の違いの少なさちがってかなり面倒な手順踏まないとこうならないんじゃないでしょうかね。有機化学は落第しまくってたので自信ないですが、右上と右下のヒドロキシ基(-OH)を変化させようとしても左上の方に3つヒドロキシ基があるので、ここをどうしようか、こうしようかっていう難しさがあると思います。反応性はそれぞれ厳密には違うので、そこを利用して。

で、たぶんニトロブテン使うと小さいところから組み立てていけるのでその辺がいくらか簡単になるとか、そんな感じでしょうかね?ニトロブテンがどう使われるのかよく分からないのでなんともかんとも。
なにせ研究室のサイトいってもプレスリリースはないし、論文探された方は見つからなかったー、って仰ってたし。

まぁここから工業プロセスに持っていくのは色々な難点があるのでしょうけど、安く大量に出来るならがんばって実現させて欲しいですね。

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記事の反応を見てみると、石油由来は気持ち悪いとか使いたくないと仰ってる方もいらっしゃいました。その気持ちはわかるのですが、その辺の動植物などから作られるものも、石油から作られるものも、構造が同じなら手元に届くものは全く同じです。(ところで、石油を作る藻と呼ばれているオーランチオキトリウムやボトリオコッカスから作られる成分から何か化粧品などを作ったとしてこれは自然由来ですかね、それとも石油由来になるのですかね?)

石油由来の成分から作られるという事は動植物を大量に使用する必要がなくなるという事です。かつ安定的に大量供給が可能と成ることです。地上の限られたパイを他のことに使うことが可能になったり、大流行した時に薬がないという事態を回避しやすくなります。

また安価にできるということは、お金がない地域の人々にも供給しやすくなるという事です。そして僕はこれが重要な事だと思っています。
石油由来成分というよりも、より安価な方法が開発されるという事は、比較的裕福な人たちが多い先進諸国よりも発展途上国などで大きなメリットが生じるはずなのです。

石油もいつかは尽きるのでしょう。しかし、限られた動植物に依存するよりはマシだと思います。動植物由来だと医薬品需要>原材料供給なんて状況を打破しづらいでしょうし。また、たとえばさっきちらっと言ったオーランチオキトリウムが作る成分は、緊急度が低い方とはいえレッドデータブックに載ってるサメが主な供給源です。(石油を生産できる藻はサメを救うかもしれない

という事で石油由来だからと忌避をされたりしなければ良いと思ってます。現状より安価で大量の合成・供給を目指すなら石油から精製できる成分を使う事がベストだったというだけの事のはずです。

繰り返しになりますが、動植物由来から作られた何かと、石油成分から作られた何かは構造式が同じなら同じものです。昆布から作られたグルタミン酸も、石油から作られたグルタミン酸も同じグルタミン酸です(ごく一時グルタミン酸ナトリウムは全合成されてたらしい。参考:化学調味料関係のとりあえずのメモ(その5) 『digital ひえたろう』編集長の日記★雑記★備忘録)。

重要なのは「石油だから」「自然だから」なんていう単純な二分割ではなく、石油を利用するにしても動植物を利用するにしても、経済的により低コストに、生物・環境的により低影響に、化学・工業的により低エネルギーに、医療面でより低リスクに、を追求する事ではないかなと。少なくともリスク面において石油由来でも動植物由来においてでも大差はないと思います。

だから石油火力は早めにメインストリームから無くなって欲しいのよねー

参考リンク
シアル酸とは (食品バイオ研究所)
・wikipedia(ザナミビル シアル酸
微生物化学研究所 および、柴崎正勝さんの研究室サイト

ところで、微生物化学研究所のこの柴崎正勝さんという方は、タミフルの全合成も達成されてる方でした。
タミフル全合成 (有機化学美術館・分館)

医薬品や合成物質に関する話といえばこの2冊が手元のお薦め。

 

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