キログラム 120年ぶり見直しへこれによって何が変わって何が変わらないの?という人のために一目で分かるこの話。
変わる物 | 変わらない物 |
質量の定義(本質) | 1キログラム=1000グラムという定義 |
キログラム原器の存在価値 | キログラム原器があったという歴史価値 |
100マイクログラム未満の質量の確かさ* | 100マイクログラム以上の質量の確かさ* |
測定・トレーサビリティの精度の向上 | その必要性 |
*このはずだけど自信がない
(なら書くな)結論:一般人には特に影響ありません。え、体重表記が小さくなるかもって期待したのに?人の夢とかいて儚いというのは良く言われますね。
基礎科学の分野はもとよりや、工業面においてもナノスケールの世界ではこのほんのわずかな定義の変更がとても大きな意味を持つことにも十分なりえます。
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現在、物理量(メートルや秒といった単位の事)の多くは物理現象の精密な測定によって定義されています。
1メートルは光が299,792,458分の1秒に進む距離とされていますし、1秒はセシウムの同位体であるセシウム133がある二つの状態を往復する回数が9,192,631,770回となる時間とされています
*。
※より詳しくはこちらへ対して質量はキログラム原器というものが質量の定義とされています。
質量の単位「キログラム」は、初め「一辺が10cmの立方体の体積の最大密度における蒸留水の質量」と定義されたが、1889年に直径、高さとも39mmの円柱形で、白金90%、イリジウム10%の合金でできている「国際キログラム原器の質量」に置き換えられた。 http://www.aist.go.jp/NRLM/standard/mass.htmlより
物理現象や物質の根幹的なところで定められた定義ではないんですね。
しかしこれは安定さに欠けるということであらたな定義が求められていました。たとえば以前キログラム原器を洗浄したら60マイクログラム重さが減ったという話もありました。
そこで、他の物理量のように物理現象から定義するか、あるいは原子の数から再定義するかという話になっているはずです。NHKの報道では後者の方が示唆されてますね。
物理現象から定義するという話ですが、これはプランク定数と呼ばれる物理定数を利用します。ある測定方法においてこの定数が組み込まれた新たな定数が導かれ、それを利用してプランク定数を精密に求める事ができるんだそうです。えぇよくわかりません。興味ある方は、ワットバランス、量子ホール効果などをキーワードに検索してみてください。
追記:オオボケかましてました。プランク定数を利用して質量を求める公式を大学受験でやったのを思い出しました。
プランク定数hはE=hν(エイチ・ニュー)という式で表されます。ここでEは
光のエネルギー、νは
光の振動数です。
またアインシュタインの相対性理論にはE=mc
2という有名な式があります。Eは共通、mは
光子の質量、cは光速です。
この二つから、hν=mc
2 という式が導かれます(Eが共通のため)。これを変形することで、h=mc
2/ν という式になり、m以外は定数なので、ここから質量mを求める事ができます。なので、プランク定数hを精密に求める事で、質量も精密に求める事が出来ます。
スミマセンスミマセンスミマセン、光である必要はありませんorz原子の数から再定義するという話は、こっちがNHKの報道や僕の知る内容です。これはきわめて純度の高いケイ素(シリコン)の単結晶から作られたきわめて精密な球(重さ1kg程度の直径95ミリメートル程度に対して誤差10ナノメートル、すなわち1000万分の1メートル単位の誤差)の、
・大きさと密度
・同位対の存在比を含めたモル質量
・格子定数(結晶は繰り返し構造をもっていて、その繰り返し構造の大きさ)
の三つの値を極めて精密に計測することで、アボガドロ数を決定するところが始まりです。
アボガドロ数というのは、このブログでも何度も登場していますが、化学において使われる原子や分子など微粒子の数の定義です。この定義は「炭素12が12gある時に含まれる炭素12原子の数」で、およそ6.02×10
23個です。これを1モル(mol)という単位で表します。
アボガドロ数が精密に分かるというのはどういう事かというと、ある質量の物質(この場合はケイ素)に含まれる原子の数がより正確に分かるという事に他なりません。
つまり原子の数を「いち、にー、さん、しー、ごー、ろく、しち、はっち、きゅう、じゅー!」と数えられるようになるのです。こうやって1kgの炭素12に含まれる原子の数を数え上げて厳密な1キログラムを定義できるようになります。嘘です。こんな数え方していては地球誕生から今に至るまで1秒に1個の原子を数えてもまだ1モルの半分程度にすらなりませんし、それはどうでも良いことです。(そもそも23桁も正確に数えられない)
現在キログラム原器は前回の洗浄で60マイクログラム(0.00000006kg)の変動がありました。ここでアボガドロ数の値が質量のあらたな定義にとってかわるためには、この水準の値まで正確(変動幅がコレより小さい)である必要があります。ここまで正確な値が出せれば、これは炭素原子の粒子の数で1キログラムを定義する方がより正確だという事になるのです。
いままで、「原器がこの大きさで1.000,000キログラムだからこれが1キログラム」だったのが、「
炭素12が6.02(以下8桁目まで)×1023個あるのが1キログラム」という風により精密に定義しなおす事が可能になります。
訂正:「原器がこの大きさで1.000,000キログラムだからこれが1キログラム」だったのが、「炭素12が6.02(以下8桁目まで)×10
23個あるのが12gだから、これを今の1キログラムに極めて等しくなるように計算した値が新たな1キログラム」という風により精密に定義しなおす事が可能になります。
ちなみに概算としては5.018…×10
25個の炭素12原子で1キログラムに相当するようですよ。
で、産総研の藤井 賢一さんらはこの精密測定に取り組んでおり、最近測定されたアボガドロ数が国際的な推奨値として2003年に採用されています。その値はこちら。(6.02214150±0.00000010)×10
23そして今回の報道に繋がっていきます。プランク定数を使うのとアボガドロ数を使うのどっちが優勢なんでしょうね。議論が行われてる国際度量衡局:BIPMのプレスリリースをざっと眺めるとプランク定数使う方が先に述べられてるので、プランク定数優勢なのかなぁ?
今回資料としてのは殆どがローカルに保存されてるものなのですが、Webで見つけた物を以下にリンクします。
・
アボガドロ定数はどこまで求まっているか・
産総研で測定したアボガドロ定数、物理定数を決定する国際機関で採用・
水に代わる密度標準の確立・
基礎物理定数の新しい推奨値 : アボガドロ定数とプランク定数の決定をめぐる最近の動き・
国際度量衡局(BIPM;英語版home)・
ScienceWindow2010年初夏号 (6-7月)以下はちょっとアボガドロ数あたりの詳しい解説。
放射性物質の問題でよくセシウム134や137と言われますがこの134や137という数字は陽子と中性子の合計を表しています。それと同時にこの数字は、セシウム134原子が1mol、すなわち6.02×10
23個あつまった時に134グラムであるという事を表しています。同様にセシウム137は137グラムだという事です。
これは原子だけじゃなく分子にも適用できるもので、例えば水分子は2つの水素;Hと1つの酸素;Oで作られています。一般に水素は水素1、酸素は酸素16なので、水分子;H
2Oは1×2+16×1=18が標準的な数字になります。これをここでは水18とでも便宜的に呼ぶことにします。この水18はアボガドロ数の定義に当てはめると、18グラムで1モルという事になり、6.02×10
23個の水分子が18グラムの水に含まれてる事になります。
1モルの水分子を原子だけで見る場合、2モルの水素原子と1モルの酸素原子が含まれる事になりますが、これを元に18グラムの水は3モルと言うことはありませんのでご注意ください。
さて、今回はシリコン球の計測を元にしてアボガドロ数を求めるという話ですが、なぜ炭素じゃなくてケイ素を使うのかという所。これは単純でケイ素は純度の高い単結晶を作れるという点です。
これに加えて、今回のような測定では色々不都合になる同位体の存在比が分かってるという事も大きいですし、ケイ素と炭素の質量比は特に精確に求められているので、ケイ素の質量やアボガドロ数を求めることでそのまま炭素にフィードバックできるからという事もあります。
測定の確かさについて、
キログラム原器の不確かさはアバウトに6×10-8(1億分の6)という事のようですが、測定されたアボガドロ数の値の不確かさは1000万分の2だそうです。これが
1億分の2になる事を目指してるということです。(これが去年の話だから最新のデータで達成したのかな…?)
シリコン球が採用された場合、キログラム原器はシリコン球がとってかわりキログラム標準器見たいな位置づけになるんじゃないかと思ってるんですが、この辺はどうなんだろう?
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プランク定数とアボガドロ数はエネルギーから質量求める式みたいにしてお互いからお互いを導くことが出来るはずなのですが、精密に計ったところ、アボガドロ数からプランク定数を求めると一致しないため何か未知の法則か定数があるのではないかと言われてるらしいです。
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元々シリコン球をどうのこうのというのはオーストラリアが発端のようで、産総研はその意味では後発になるのかな?
(11/10/22 訂正・追記)
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